静かに置き換わる「盛り土」の常識(後編)
静かに置き換わる「盛り土」の常識(前編)からつづく
大きすぎて見えないヤバい盛り土
前回コラムの『重ねるハザードマップ』を見ていて、いつも買い物に行くスーパー近くにも大規模な盛り土の表示がありました。そこは谷埋め盛り土の表示でしたが、買い物ついでに見に行ってみました。
一見、現況は元の地形を活かして造成されたかのように感じていましたが、そうではなかったようです。改めて現地に行ってみてもピンと来ませんでしたが、よく観察していると、谷を埋めたとされているエリアには地盤沈下の形跡がありました。
大きな高低差のある宅地に重力式擁壁がありましたが、継ぎ目のところに草がいっぱい生えている場所がありました。もしやと思い近づいてみると3cmほど片方が沈んでいました。これは、盛り土による造成エリアでよくある現象で、盛り土部分が様々な要因で造成完了時より沈下することで現れるようです。
さらに盛り土エリアを歩いてみると、道路にも「兆候」が現れていました。丁度『重ねるハザードマップ』上で谷の真ん中(谷底に水の流れるライン)あたりだった道路付近だけアスファルトの割れが著しいのです。元々谷だったところの、水の流れる方向に直行する方向の道路があちこち割れていました。
割れは少しの幅ですが、かつて低かった(盛り土の多い)方向に沈んだ時に出る割れ方です。専門家によると地下に水の道があって、地下が侵食されている場所が多く存在するそうです。「埋もれ谷」というそうです。
長い時間をかけて、深い谷だったところに川が運んだ土砂が積もり、軟弱な平地ができてきます。この平地に埋もれた谷のことを「埋もれ谷」といいます。これは山間部にも存在し、実際には数えきれないほど潜伏しているそうです。
↑規模の大きい盛り土ほど元の地形は分からなくなっています(緑のラインが盛り土エリア)
↑ここの擁壁の切れ目だけに草が・・・
↑近づいてみると、手前が3cmほど沈んでいました
↑谷に向かう方向と直行する道路には無数のひび割れが
日常の中にあるヤバい盛り土(崖)
大規模な盛り土を日常認識することは、よほど注意して見ないと難しいですが、ぱっと見でも「これ大丈夫?」と思うような盛り土や崖によく出くわします。
宅地造成時点では一旦コスト優先で仕上げて宅地販売を行い、その後建築工事の段階で2次造成を行うケースが多く見受けられます。これは、脱法工事を助長したりコスト負担を先送りしたりする業界の悪しき慣習です。
擁壁の高さを出来るだけ低く抑えて、土の持ち出し処分量を最小限にする訳です。そうすると造成原価を下げることができ、利幅を確保しやすくなるのです。その段階では宅地地面は全て平坦な状態ではなく、法面を多く含む状態で引き渡されるのです。
その結果、建築主は建築工事段階で土を捨てたり、既存擁壁の上に2段目の擁壁やコンクリートブロックを詰んで平坦な地面を拡げる必要に迫られるのです。そういう流れで傾斜地には様々な欠陥擁壁が生み出されていったのです。(土地みたてのトレーニング法(2)坂道にて でも実例を紹介しています)
実はコンクリート擁壁にも寿命があります。耐震性は50年程度と言われる専門家もいます。お城などの石垣の代わりに使われているものなので、永久構造物ではないのか?という感覚がありますが、鉄筋コンクリートである以上劣化は進んでいきます。
その上に建物が建っている状態で擁壁の造り替えはまず難しいので、古い擁壁を残したまま建物を建て替えたり、新築したりすること自体が寿命を意識すると大問題です。建物よりも先に擁壁のほうが先に寿命を迎えてしまうことになるからです。現実的には大規模な擁壁を解体して作り直す前提だと、既存擁壁を有する宅地の価格は暴落するはずです。
擁壁の解体費用は、建物の何倍もかかる場合も普通にあります。評価の低い土地であれば、擁壁の解体費用を差し引くと「0円でも高い」ということもあり得るはずです。それ故に擁壁の寿命や強度の低下については、ぼやかされている面があるように思います。ババ抜きで、手持ちのババの存在を知られないようにするのと同じことです。
↑重力式擁壁の上に空石積み(空石積みである時点で耐震性アウトです)
↑鹿児島は擁壁オン擁壁のオンパレードです
↑よく見ると増し積み3段擁壁です
↑①布積み間知ブロック+②石積み+③コンクリートブロック
↑①谷積み石+②コンクリート擁壁+③コンクリートブロック(塗り分けられていてわかりやすいです)
↑この宅地は団地造成直後は法面であったと思われます。番号順に下へ下へと土留めが増えたパターン
↑極めつけの『擁壁のデパート』カオス状態
↑この状況でも住宅が新築されています(恐怖)
100年に1度は明日かもしれない
鹿児島市は、活火山である桜島の外輪山が取り囲む地形です。地質学的には姶良カルデラというそうです。なので、元々平坦な土地は少なく昭和30年代以降宅地造成は傾斜地へ拡がっていきました。当時は全国的に住宅地需要が増えていた時代です。
鹿児島ではシラスと呼ばれる土質が多く分布しています。過去の大噴火による細粒の軽石や火山灰です。ガラス質粒子が多く含まれるのでイ ンター ロッキ ング(噛み合わせ)効果があり、崖が直壁で自立するのだそうです。
↑シラスの切り立った崖(意外と崩れてきません)
新築・既存どちらに対しても、高さが2m以下の擁壁はがけ条例も適用されませんので建築基準法による具体的な規制はかかりません。現実的に法への適合については設計者のモラルと施主の予算に委ねられますが、施主に説明の上で選択しているケースは稀でしょう。
↑地面より下の部分では「寿命」があることが意識されていないのが実態です
大災害の時に本当に怖いのは、大きすぎて見えない盛り土のほうですが・・・「社長ご自身ならどう判断するか」という価値判断を顧客にも提供されていますか?それとも、お上の基準(会社が罰せられないレベル)を是とされていますか?
これは、プロとして悩ましい問題です。最近「100年に1度」がしょっちゅう発生している気がするのですが、気のせいでしょうか。
社長の会社では盛り土宅地の安全性評価は何をもって判断されていますか?災害時のリスクを考慮した技術的な安全性のレベルと法令遵守のレベルを分けてとらえて顧客対応されていますか?
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