稼ぐ企業は「見せしめ」「吊し上げ」をしない
一大イベントがあったその日、関係者は全員疲れたまま一杯かわしあい解散。
すっかり夜も更けた東京駅にてG社長と二人になったのですが、今日はお疲れさまでしたと帰路につくかと思いきや意外な事をおっしゃいました。
「伊東さん、実は私この後移動で大阪です」
私が驚いたのは、すでにヘトヘトであろう社長は「やっぱりいけなくなった」もしくは「今度でいいよね?」の一言で全てを簡単に変えられるほどの成功を収めている方なのに、疲れも見せずに笑顔でおっしゃったからです。
私は、社長がそこまでする理由をお聞きしたところ、返答はこうでした。
「私はそうするって決めちゃってますからね」
圧倒的に稼ぐ企業のトップにお会いする度に「えっ?」と驚かされることばかりです。彼らが「他の人とは違うんだな~」と思ってしまう点の1つに「人を想う気持ちが強い」が挙げられます。その想いの強さは、自分よりも人のために体を張れるくらい。そして最も重要なのが、社長のその想いが各リーダーにまで徹底的に伝わっているところです。
たとえ企業のトップがどんなに人を想う気持ちが強くとも、その想いが各リーダーにうまく伝わっていなければ、企業の業績も上がっていきません。企業経営者としては「自分の想いがきちんと伝わっているのか?」常に確認を挟みつつ、軌道修正しつつ経営していきたいところです。
では「なるほど、私の想いは社員やスタッフにそんな形で伝わっているのか・・」と明確に確認できるタイミングはいつ、どこなのか?
それは従業員が目標に対して、結果を出した時と言えるでしょう。
特に目標未達成時の各リーダーのマネジメントにおいて、それは如実に表れます。
「社長の想いを伝える」はそう簡単ではありません。これまでさんざん「人が大事!」と言い続けてきても、残念なことに各リーダーの中には目標未達成時に、従業員をこれでもかと痛めつけることがあります。まるで「君なんか別に居なくなっても会社はどうということはないんだ」「代わりはいくらでもいるんだから」と言わんばかりに。
そしてさんざん痛めつけておきながらも、部下から自分の指導方法を変な形で会社に報告され「〇〇君の指導方法には問題があるぞ」となっては困るからと、口ではこんな言葉を添えたりします。
「こんなに厳しくしているのは全て君達のためなんだ」
「君には成長してもらいたいから、私は仕方なく心を鬼にしているんだ」
部下への過度なマネジメントをたった一言で正当化しようとするのです。
一方、社長の想いが全従業員にブレなく伝わり、稼ぎ続けられている企業は「部下に変に捉えらたらどうしよう」など、いちいちそんな心配をする必要もありません。
なぜなら、たとえ社長が長期間不在であっても、各リーダーのマネジメントの行為自体には、社長の熱い想いが自然と盛り込まれるようにできている「仕組み」があるからです。
よって、目標未達成時に会社から指導を受けた社員やスタッフは「このままではいけない」と反省するのはもちろん、それと同時に
「この会社はなんて私想いなんだ。ずっと働いていたい・・・」
と誰もが感じようになっています。
ところで「徹底的に痛めつける指導」とは具体的にどんな行為なのか?
様々ありますが、代表的なのは「見せしめ」「吊し上げ」です。
例えば目標未達成者を大勢の従業員の前で名指ししたり、立たせたり、できなかった理由や今後どうしていくのか?を発言させたりと、晒し者扱いすることです。
会社側としては「こうなりたくなかったら」と周囲に知らしめ、本人にも「もっと気合を入れないと・・・」と緊張感を持ってもらいたいことでしょう。
一見この見せしめ、吊し上げという行為は優れた罰に見えるかもしれません。
しかしこれは強力過ぎるがゆえに恐ろしいリスクがあるのです。
それは「味をしめて乱用される」という依存性です。
見せしめ、吊し上げを受けた社員やスタッフに、ある程度の能力があれば「二度とこうならないようにしなければ」と自ら解決策を見つけ出し、力強く成長してくれるかもしれません。
しかし、自分の能力ではどうしたら目標が達成できるのか?解決の糸口さえ掴めない方にとってはまさに地獄。今後の未来は深い闇に覆われています。
そんな時、経営者としては各上司が「どうした?」「大丈夫か?」「どこにつまづいてるんだ?」などと面倒を見てあげて欲しいところです。
各リーダーがそんな心優しい人達ばかりなら会社も安泰・・・と言いたいところですが、人は自分が置かれている状況下によって、考えや行動を変えてしまうものです。
普段は部下に優しい人であってもこんな状況下だったらいかがでしょうか?
・すこぶる忙しい
・上司に追い詰められている
そんな逼迫した状況下でも果たして「どうした?」「大丈夫か?」と言ってあげてくれているのでしょうか?
また仕事をする環境がこんな状態だったらいかがでしょう?
・部下とは勤務時間が違っていて顔を合わせる機会が少ない
・部下とは勤務場所が違っていて月に何度かしか会えない
部下の面倒を見る余裕や機会が無いリーダーが、ふと思い返すと「見せしめ、吊し上げ」という手段がチラつきます。
なんとその一手は実施するだけで部下全員が死に物狂いで動き出すのです。
しかも時と場所を選びません。コミュニケーションツールや会社のグループウェアで「ヤル気あるのか?」などとたった一言を送ればいいだけ。
部下の指導にどうやって時間を取るか?彼らが結果を出せるようにするにはどうしたらいいのか?など上司は「ああでもない、こうでもない」などと試行錯誤しなくても済むのです。ただ自分がすでに持っている地位という権力を振りかざすだけ。
さて、企業経営者は
「いや、それでもウチの各リーダーはそんなことはしていないはずだ!」
と言い切れる「一手」を打てているでしょうか?
もしかしたら心優しい社長の見ていない所で各リーダー達は「社長が望まないマネジメント」をされているのかもしれません。
さてここで「伊東さん、見せしめや吊るし上げをする人ってそんなにいるんですか?」と疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。残念ながら私は多いと見ています。その理由は国が堂々とやっているからです。
9月13日の日経新聞にて「悪質シッター実名公表」15日から厚労省、地域共通リスト
とありました。
どうもこの「公表するぞ」という行為は行政の必殺技のようです。過去には
・新型コロナウィルス関連の時に、要請に従わなかった飲食店名を!
・患者を受け入れなかった病院名を!
この実名公表も見せしめ、吊し上げの1つです。
一見、そんな悪い人達、悪い団体なら公表していいんじゃない?という意見もあるかもしれません。
しかし見方を変えますと
・実名公表=悪いのはこの人達なんです。お国はやることやりましたから。
・もし国民がコロナにかかったり、悪いベビーシッターに被害を受けたらそれは公表しているにもかかわらず、事前確認しない国民が悪いのです
と捉えられるのではないでしょうか?
これを企業に例えると
「お客様へ、悪いのは社員、スタッフなんです」
「企業は悪くありません。なので彼らの実名を公表しますね」
ということでしょう。
さて、こんな企業が令和の時代、本当に存在するのでしょうか?
一番問題なのは、企業と言う組織を引っ張っていかなければならない各経営者達の、お手本と見られるポジションにいる「国」が行っているということです。
下手すれば「そうか公表か!」「その手があったか!」など安易にマネされる可能性もあるのです。
吊し上げ、見せしめは一つのマネジメントの手段といえるでしょう。
実際にこのマネジメントで上手に業績を伸ばしてきた企業もあります。
忘れてはいけないのは、その一手には見えないリスクが潜んでいるということ。その正体をしっかり把握していないと、組織内の各リーダーに安易にマネをされ、それが日常化してしまい、社員やスタッフ達は自分達に迫る課題という壁をのり越えられず、もう潰れてしまう・・・という瀕死の状態であっても上司の助けも得られずに、会社を去ってしまうかもしれないのです。
人を雇うという行為がどれだけ大変なのか?
経営者はもちろん、社内のリクルート部門の社員はよくわかっているはずです。
従業員はこれだけ大切なんだ。そんな経営者や彼らの想いが他のリーダー達に、クリアに、しかも素早く、かつリアルタイムで常に伝わり続ける、そんな「仕組み」は社内にできあがっているでしょうか?
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