造成地あるある(その6)既存の木を活かす土地5題
造成地あるある(その5)三角形の土地3題 からつづく
「土地みたて」の要素のひとつに「活かせる既存の木を見極める」というテーマがあります。これは、建設地の敷地内だけでなく敷地外も含めて対象になります。当然のことながら、敷地外の場合は権利上お施主様の思ったようにはなりません。敷地内の場合でも「既存の木の位置を尊重してあたらしい住まいが成立するのか」といった根本問題はつきまといます。
「そんなことを考えているより、欲しければ新たに木を植えたほうがいいのではないですか?」と言われることは多い訳ですが、それがそうでもないのです。新しく植えた木が、所定の役割を果たしてくれるようになるのには早くても5〜6年、場合によっては10年以上は優にかかってしまいます。既に成長している木があれば、それを活かして「時間の利益」を獲得することができるのです。
「建物」が完成してから「あたらしい木」を植えたとしても「住まい」としての完成には、何年も待たなければならないということです。だからこそ「活かせる既存の木」には大きな価値があるのです。そういった敷地のとらえ方は、にわかには理解してもらえないこともあります。しかしながら、そうして選んだ土地に、出来上がった家に生活されている方々にお話を伺ってみると「既存の木を活かす」選択が「いかに生活価値を上げているか」を改めて教わることになります。
①隣家の木を活かす土地にて
Tさんは、ご実家から少し離れた畑に新築予定でした。車で少しの距離でした。しかし、ご実家の隣の土地が売りに出されたことで建設地が変更、急展開することに。Tさんと奥様は「隣は近すぎ!」と慌てましたが、畑に建てるよりも総合的な費用も抑えられることが判明しました。土地代はタダでも、分筆費用や水道引込み費用、地盤改良費用などが嵩むからです。
そして、ご実家隣のその土地の別のお隣さんには夏の朝日をやわらげる大きな木が立っていました。その方角に新たに植えても、夏にの日除けとして機能するには早くても数年はかかります。ご実家とも近所つきあいのあるお宅でしたし、さっそくご挨拶に伺いました。
「この木は、あたらしい家にとっても、すごくいい場所にとてもいいサイズに育ってますので、決して切らないでください」と、丁重にお願いしてきました。営業マンの責務を果たし「これで安心」と思っていました。
↑ご実家(左)の隣の土地。正面の隣家の木がちょうど夏の朝日対策になる位置に
↑2階にも陰が出来る絶好の高さでしたが。。。
↑「地鎮祭」の写真(問題の木は丸坊主になっています💦)
めでたく「ご契約」となり「地鎮祭」直前に現場に訪れた際に「悲劇」が訪れました。大きな木のあるお隣さんが「地鎮祭」の予定を聞いてバッサリ「剪定」をしてしまわれたのです。「地鎮祭をするのにこのままボウボウでは申し訳ない」とのことだったそうです。確かに切ってしまってはいないのですが、夏の日除けにはかなりの時間を要す姿になっていました。。。(現在は復活しています)
②別荘地敷地内の木を活かす土地にて
Sさん所有の建設地は、県内屈指の温泉エリアにある別荘地にありました。早い話、山の中に道路を巡らせて電気・水道・温泉を引き込んだ団地で、最小限の造成で宅地化された場所です。
よって区画は大きいのですが、土地は斜面ばかりです。平坦な部分はほとんど見あたりません。大きな木も元々生えていた状態のまま販売されています。自然の中に生えている木ですから、伐採・抜根するにはかなりの労力がかかります。
現地に行って敷地内に入ってみると、意外に境界ギリギリに隣家が建てられているのに驚きました。新築時には隣の土地が深い山林のままなので、至近距離に建物ができる可能性を考えなかったのでしょう。
↑別荘地として開発された土地(道をつけただけで自然の法面だらけです)
↑隣家を法面下から見たところ(別荘地でもこんなに隣地に寄せて建てる人もいます)
↑法面下の別の隣家も境界ギリギリに建っていました💦
諸々の条件から、この敷地では何本かの大木を残して、その木を活かせる位置に駐車スペースや建物を計画する事にしました。キャンプのときのように、自然の条件に合わせて居場所を決めたのです。Sさんは牽引式のキャンピングカーも所有されていて、キャンプ大好きでしたので「自宅でも毎日キャンプ中みたい」と、その考え方を気に入っていただけました。
↑既に大木に育っている元々の木を残す作戦にしました
③隣接集合住宅の木を活かす土地にて
Hさんの土地は、街なかの古家付きの物件でした。プランの検討にあたり先行して古家を解体、隣接地との関係を詳しく吟味することにしました。その際、お庭の小山に立派な紅葉がありましたので、その部分だけは一部残してもらいました。
隣接地には古い公営の集合住宅がありました。ゆったりした芝生の敷地に、こじんまりした低層の建物がぽつんぽつんと建っていて、公園のような雰囲気でした。そしてHさんの敷地境界に沿って桜の木が植え込まれ、2階の高さ以上に大きくなっていました。
↑古家解体直後の建設地(奥に公営の集合住宅が見えます)
↑正面奥の公営住宅の敷地から見たところ(新築時に植えられた桜の木が立派に育っています)
↑枝がはみ出してくるぐらい境界から近いです(上の写真に片方だけ剪定跡があります)
↑向かって左側の隣接地(広い空き地で近いうちに何か建ちそうです)
ここでは、桜の木に沿って2階のバルコニーを取ることにしました。集合住宅は近い将来建替えられることも考えられるので、桜の木のみ取り込む工夫をしました。
しかし、ここの桜の木には定期的に強めの剪定が入ります。公営ですから「切らないで」とは言えませんので、数年毎に「軽いショック」を受ける事になります。
それでも「管理は公営」「楽しむのはHさん」というのはありがたい限りです。
④隣接山林の木を活かす土地にて
Tさんの土地探しは、更地だらけの大規模な造成団地内でどの区画を選ぶか?というケースでした。相当な区画数でしたが、下見の際は1日かけて見て回りました。
1日中同じような広さの更地ばかり見ていると、さすがにくたびれてきました。暑いのにどこにも陰がなく、思わず大きな木陰のある区画に飛び込み休憩する事に。
その区画に大きく張り出した木の陰に入ってみると、とても涼しくて山の中のいい香りがしました。そこは、開発エリアと自然の山林の境い目にあたる場所だったのです。
敷地は平坦でしたが、山林は斜面になっていて麓に向かってずーっと下がっていっていました。週末にはTさんご家族もここに来られて、満場一致で気に入られました。
↑ひときわ目をひく大木に一目惚れしました(日立のコマーシャルみたいです)
↑右手のガードレール脇に法面下に下る階段があります
↑見上げると森の中のようです(山の匂いがしてとっても涼しいです)
↑造成地とは思えない雄大な風景(といってもやがて家だらけになります)
Tさんのお父様からは「こんな崖のそばは危ないからダメだ!」と大反対を受けました。斜面は上から見るととても急に感じるものです。何枚も山林部分の断面図を描いて傾斜角度がそれほど急ではない事を理解していただき、ここに建てる事になりました。
⑤敷地内法面の木を活かす土地にて
Dさんの候補地は、古い住宅が建ち並ぶ造成地にひとつ残った空き地が売りに出ている場所でした。「どうしてここだけが更地で残っているの?」浮かんだ疑問は現場に行くと、すぐに解消することになります。
土地の奥半分が法面になって下がっていたのです。これを平坦にするには、奥の土止めをやりかえないといけません。大きな高低差があり、少なくても500〜600万はかかりそうです。
土地価格は安くても、この費用を加えると結局は高い買い物になってしまう訳です。しかし、敷地奥のほうに生えている落葉樹と、その場所から眺める池の景色には得がたい美しさがありました。
↑一見平坦に見えますが奥は池です
↑こんもりした茂みに1本落葉樹があります
↑池側は法面になっていて下がっていっています
結局Dさんはこの土地で新築する事にしました。法面はそのままに、建物の基礎を深く設計して建てる計画にしたのです。大きな落葉樹の下にデッキをまわして、その下に池に向かって開いた斜面の庭をつくりました。
それはそれはプライベートで、いごこち最高の場所になりました。
↑建設地左奥付近(池のほとりに畑が!)
↑ 右の隣地より下がっています(しげみで隠れているところが法面になっています)
↑何者かによって、ちゃんとした畑が作られています(どこから降りてるのでしょうか?)
↑池の対岸から見たところ(遠くて秘密の畑もよく見えません)
「土地みたて」で生えていた、活かすべき「木」。なんとも「営業マン泣かせ」です。しかし、そのちょっとした「苦労」は営業マンの「分身」となり「次のお客様」「次の相談」「次の仕事」を生み出すことになりました。
社長の会社では「既存の木」残して活かしていますか?まさか、そこは見てなかったり、何も考えずに処分したりしてませんよね。
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