経営者なら稼ぐ仕組みを社内に構築すべし!!!
「髙窪先生、実は非常に困った状況になっており、ご相談させてください。
営業部のエースを引き抜かれて、取引先ごと他社に持っていかれてしまいました。このままでは、売上半減となり赤字確定。今後の売り上げも回復の目処さえ立ちません・・・」先日のコンサルEXPOで、とある経営者の方からのご相談です。
詳細をお伺いしたところ、ご自身が過去に他社からこのエースを引き抜いたのですが、同じことを他社にされたとのこと。どうやら業界的に、営業担当者に取引先がついているようで、引き抜きは日常茶飯事のようです。
入社時や退職時に「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」を提出させていないのですか?と伺ったところ、「そのようなものは提出させていません」とのご回答がありました。
中小企業にも「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」は必須
「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」は、会社の営業、技術などの秘密情報や顧客などの情報を、担当者のモノとせず会社に帰属させるために必須なのですが、この経営者の方はご対応をされていませんでした。
この経営者の方に「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」をインターネットで検索いただきました。
大企業では入社時に以下のような「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」を提出させ、退職時にも自覚を促すために再度提出させています。(あくまで例示ですので、詳細はご自身にて弁護士にご確認・ご相談ください。)
〜 以下、入社時の例示:ご参考 〜
私は、貴社に就職するにあたり、以下の事項を遵守することを誓約いたします。
第1条(秘密保持の誓約)
貴社就業規則及びその他の規程を遵守し、次に示される貴社の技術上または営業上の情報(以下「秘密情報」という。)について、貴社の書面による事前の許可なく、如何なる方法をもってしても、開示、漏洩もしくは使用しないことを約束致します。
①製品開発、製造及び販売における企画、技術資料、製造原価、価格決定等の情報
②財務、人事等に関する情報
③他社との業務提携に関する情報
④上司等により秘密情報として指定された情報
⑤以上の他、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報
2 秘密情報については、貴社を退職した後においても、私自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために開示いたしません。
第2条(秘密情報の帰属)
秘密情報は、私がその創出又は取得に関わった場合であっても、業務上創出又は取得されたものであり、貴社に帰属することを確認いたします。また、秘密情報について私に帰属する一切の権利を貴社に譲渡し、その権利が私に帰属する旨の主張をいたしません。
第3条(競業避止義務)
貴社に在職中は、貴社の業務と競合し、利益の衝突を来すおそれのある競業取引をいたしません。
2 貴社を退職した場合、退職後●年間は、貴社の書面による事前の許可を得ることなく、貴社(支店を含む。)が所在する都道府県において、次の行為を行いません。
① 貴社と競業関係に立つ事業者に在籍、就職若しくは役員に就任すること。
② 貴社と競業関係に立つ事業者の提携先企業に就職若しくは役員に就任すること。
③ 自ら開業し、貴社と競業関係に立つ事業を行うこと。
第4条(引き抜き行為の禁止)
私は、貴社に在職中及び退職後■年間にわたり、私又はその関係者を通じて、貴社の役員若しくは従業員(正社員、パートタイマー、契約社員、派遣社員等名称を問わず一切の従業員をいう。)を勧誘し、貴社からの退職を促し、あるいはその他何らの働きかけも行わないことを約束いたします。
第5条(誹謗・中傷行為の禁止)
私は、貴社に在職中及び退職後、貴社の誹謗・中傷となる言動を行わないことを約束いたします。
第6条(設備の私的利用の禁止)
私は貴社の什器備品、通信ネットワーク機器等を、貴社の業務上の目的以外で使用しません。
2 前項を判断するために、貴社が必要に応じて、私に貸与した通信ネットワーク機器等について検査の対象とできることを承諾します。
第7条(資料等の返還)
貴社の業務に関連して作成若しくは入手した書類、情報等のすべての資料(磁器テープ、CD-ROM、フロッピーデスク、その他磁気媒体のほか、クラウド上作成した情報等を含むが、これらに限られない。)は、私が退職する場合、退職するときまでに貴社に返還(クラウド上作成した情報については、私のログインに必要なIDとパスワードを開示する方法)し、貴社の書面による事前の許可なく、これらの資料を漏洩しないことを約束いたします。
第8条(損害賠償)
前各条項に違反したときは、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の損害を遅滞なく賠償いたします。
2 前項において、私が本誓約書第3条及び第4条の規定に違反する行為を行ったときは、当該行為によって得た利益の額は、貴社に生じた損害の額と推定されることに同意します。
〜 以上、例示 〜
このような「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」に、退職者の署名・捺印をもらっていれば、秘密保持・競業避違反ということで、今回のような事態は避けられたのではないでしょうか?
社内に営業の仕組みがないのが根本的な原因
この経営者の方からも、「確かに、これを提出させていれば、このような状況にはならなかったと思います。まあ、私も彼を引き抜いたのですから、しっぺ返しといったところでしょうか。今回は、担当者のみでしたが、下手をしたら営業部の人員も引き連れていなくなってしまう可能性もあったと思うとゾッとします・・・」とのご発言がありました。
「ご認識の通りです。そして、一番の問題は、あなたが経営する会社の営業を属人的なものにしてしまっていることなのです。営業の仕組みを社内に構築せずに、エース級の担当者に依存する属人的なものにしている以上、今回と同様のことが今後も発生します。営業に限らず、事務対応を含めた稼ぐ仕組みを社内に構築しなければなりません。」とコメントさせていただきました。
「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」の第2条(秘密情報の帰属)では、「秘密情報は、私がその創出又は取得に関わった場合であっても、業務上創出又は取得されたものであり、貴社に帰属することを確認いたします。また、秘密情報について私に帰属する一切の権利を貴社に譲渡し、その権利が私に帰属する旨の主張をいたしません。」となっていますので、形式上は対応できるのですが、あくまで形式的な対応のみとなります。
営業の仕組みづくりとは?
営業であれば、取引先の情報や往訪時の面談記録なども大事な資産です。面談記録を秘密情報として、あなたの会社に帰属させなければなりません。そのために、営業管理システムやクラウドなどの情報管理や、営業担当者がどのよう営業するのかについてのマニュアルなどの整備が必要となります。
日々の営業で蓄積される取引先の情報や面談記録は、担当者が交代してもそのまま引き継ぎ資料として活用可能ですし、取引内容(金額や数量など)を加えることで、後任がいつでもアップセルやクロスセルへと繋げることができます。
・アップセル:既存取引先に対し、いつも購入している商品・サービスを、より上位の高価なものに移行してもらう営業活動のこと
・クロスセル:いつも購入している商品やサービスに加え、関連するものを組合せで購入してもらう営業活動のこと
このように、営業の仕組みが社内で整ってくると、エース級の営業担当者は不要となります。不要なだけでなく、マニュアルを覚えされば新入社員でも営業担当者として活躍が可能となるのです。
マクドナルドなどのファーストフード店やセブンイレブンなどのコンビニエンスストアなどがわかりやすいと思います。社会経験のない学生や、外国人留学生などでも、徹底したマニュアルとOJT(On the Job Training)で、研修期間を終えれば一人前の仕事をこなします。
イメージしてみてください。あなたが経営する会社の営業や事務なども、同様に徹底したマニュアルとOJTで、新入社員や中途入社した社員でも即戦力にすることが可能となり、だれでも対応できる状況を・・・
もう、他社からエース級の人材を引き抜いてくる必要もありませんし、引き抜いてきた人材が他社に転職しても大きな影響はありません。エース級の人材に頼らなくても、仕組みとして対応することができるので、だれがやっても一定程度の結果が得られるのです。現在の従業員で対応可能なのです。
大企業と中小企業の違い
あらゆる業務が仕組みとして社内に構築されているのが大企業で、属人的にブラックボックスのある業務があるのが中小企業といっても過言ではありません。
この仕組みがあるか否かが、大企業と中小企業の最大の違いであり、大企業から中小企業に転職してきたエース級の人材が思うような活躍ができずに退職してしまう最大の原因なのです。
2代目経営者で、修行のために大企業に就職後、自社に転職してきた経験を持つ方であれば、このことが身に染みてお分かりだと思います。
修行のために大企業にいた頃は、新規営業対象先の抽出から進捗管理、クロージングまでのマニュアルがあり、面談記録もクラウドで一元管理され、成功事例のフィードバックを含めて誰もが同じような活動を行うことができていたため、程度の差こそあれ誰でも一定程度の成果は出せた。そして、このような仕組みがあることが当たり前だと思っていた。
ところが、自社に転職してきてみると、そもそもマニュアルというものがなく、どのように営業するかが担当者任せで、営業先のデータ・面談記録なども全く蓄積されていない。エース級の担当者になると野放し状態で、誰もその営業活動の内容も把握していない。完全なブラックボックスになっており、成功事例のフィードバックなども全くない。
今回ご相談いただいた会社のように、エース級の担当者が他社に引き抜かれてしまうと、取引先の全てを丸ごと持って行かれてしまうことになります。更に、各取引先の営業活動の内容もわからないので何もできませんし、成功事例などのフィードバックによるノウハウの蓄積がされていないので、あなたの会社には何も残らないのです。
あなたの会社に仕組みがあれば
もし、大企業のように営業が仕組みとして社内に構築されていたらどうでしょう?
そして、「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」が社内規定文書として制定され、入社時と退職時には従業員から提出させていれば、仮にエース級の担当者が他社に引き抜かれても、秘密情報はあなたの会社のものですので、致命的な影響はないはずです。
社内に営業の仕組みができていますので、各取引先の営業活動の内容や進捗状況がわかるだけでなく、クロージングまでのマニュアルがあり、面談記録もクラウドで一元管理されていることから、後任への引き継ぎも問題なくこなせます。
更に、成功事例のフィードバックを含めて誰もが同じような活動を行うことができるので、程度の差こそあれ、各担当者の営業成績も一定の成果は期待できます。つまり、あなたが経営者として、売上や利益の見込が立てやすくなるのです。
また、営業だけでなく、事務についても同様に仕組みを社内に構築することができれば、属人的な仕事ではなくなるので、従業員であれば誰でもその役割を担うことができるようになります。
まとめ
ご相談をいただいた経営者の方以外でも、営業部ごと他社に引き抜かれて訴訟になった事例もありましたので、「秘密保持・競業避止等に関する誓約書」の制定がない場合には、すぐに制定してください。
また、営業でも事務でも担当者にしか分からないようなブラックボックスがあれば、それを放置してはいけません。担当者にブラックボックスを開けさせて、だれでも対応できるようにマニュアルにしましょう。
営業であれば、新規営業対象先の抽出から進捗管理、クロージングまでのマニュアルを整備することで誰でも対応することが可能になります。そして、面談記録などもクラウドで一元管理することで、社内共有されれば担当者が引き抜かれるようなことがあっても問題ありません。
後任の担当者が、これまでの進捗状況等を把握した上でマニュアルに基づいた対応をすることができるので、これまで通りの取引継続が可能になります。
また、成功事例のフィードバックも共有することで、組織として更なる高みへと進んでいくことができるようになるのです。
この混沌とした時代をどう生き抜いていくかを考える際は、是非ともあなたの会社にどのような仕組みを構築するか、しっかりと考えてください。
あなたは経営者として、どのように稼ぐ仕組みを社内に構築されるおつもりでしょうか?
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