注目のコンサルタント ── 西田 純氏(2/4)
社会改善は、ビジネスチャンスの塊だ!
SDGsで会社を伸ばす、国連出身の正統派(2)
合同会社 オフィス西田
チーフコンサルタント 西田 純 氏
SDGsで多角化経営を成功させる
西田❖経済が伸び悩む中、どの様に事業を伸ばしていけば良いのかという点は、多くの企業経営者共通の悩みかと思います。
そのための有効な手段の一つが〝経営の多角化〞ですが、実はSDGsを経営の根幹に据えることで、多角化も成功しやすくなります。
「最速で売上プラス10億」を合言葉に、SDGsを核とした事業多角化の検討をお勧めしています。
白川◉具体的に教えてください。
西田❖儲けだけを追って新規事業を展開し成功するケースも多くあります。
しかし元来多角化は失敗するリスクが高い上、連続性のない小さな事業の集まりを興してもシナジーがなく、賢いやり方とは言えません。
例えば、予備校が新たに焼き肉屋を始めたとします。周囲は「なぜ、予備校が焼き肉?」と疑問に感じます。下手したら「あの会社は儲かれば何でもいいんだね」と、本業の価値毀損に繋がりかねません。社員達も、心からは納得して働けないでしょう。
そもそも、本業の経営資源が有効活用できているとは言えず、勿体無いです。
決して、焼き肉屋が悪いというわけではありません。関連性が全く見えないことが問題ということですね。
白川◉では、SDGsを根幹に据えた多角化の例を教えてください。
西田❖私の支援先で、廃油や汚泥等の産業廃棄物の処理をされているA社では、今、多角化の一環で農業をやっています。
汚泥処理の際にバクテリアを使用するのですが、このバクテリアから活性剤を開発することに成功しました。この活性剤には土壌を豊かにする効果があるということで野菜づくりを始められたのです。
産廃処理と農業って、全く違う事業に見えると思いますが、社長の頭の中ではSDGsで繋がっていますのでブレがありませんし、意思決定もスピーディーです。
また、異なる事業でもSDGs達成という根幹があるので、統一性を持たせることができ、全社一丸体制が築けています。
そして、大事なことは、外部への発信力が増したということです。A社は、HPやSNSで積極的に自社の取り組み・考えを発信していて、企業価値の向上にも繋がっています。
白川◉A社の事例で思ったのですが、やはり本業が環境ビジネスに関連していないとSDGs導入は難しいのでしょうか?
西田❖そんなことはありません。製造業が自社製品や経年劣化した運搬具等を再生するサービス業を始めるような事例や、不動産業が自社の強みであるビルの屋上空間を生かした都市農業に進出するような事例もあります。
白川◉しかし、異業種への参入には、勇気もコストもかなり要りますので、中小企業には敷居が高い面があるかもしれませんね。
西田❖そこで、すでに環境ビジネスを行っている会社との「事業提携」が方法論としてあるわけですが、この際にも、SDGsがあるとスムーズです。
西日本で広く通信設備のメンテナンスをしているB社があります。
各所の電柱にある固定電話の機械設備の保守点検をしているのですが、固定電話の加入件数が減ってきていて、新規事業が必要と考えました。
しかし、しっくりくるものがない…。 そんな時、展示会でC社を見つけました。
C社は、生ごみの堆肥(たいひ)化ビジネスを行っています。特殊なステンレスの箱の中に、独自開発した発酵菌と生ごみを一緒に入れることで堆肥に変えることができる技術を持っています。
C社は、会員であるレストランや給食センターに箱を貸出し、発酵菌を販売しています。更に、出来上がった堆肥を集荷し、同じく会員である農業法人に配達します。堆肥を使うと美味しい野菜となるのです。
そして、農業法人は、堆肥を使って育てた野菜をサラダメーカーや漬物メーカーに売るという、閉じたループをうまく活用したビジネスモデルを展開しています。
私はC社会長を、もう10年以上、知っているのですが、SDGsを経営の核に据えた立派なマネジメントをしています。
かねてから、SDGsに関心を寄せていたB社は、「これこそ自社のやるべき事業だ!」と直感したそうです。
白川◉なぜですか?
西田❖通信関係の会社だから、リモートセンシング技術があります。センサーを箱につけることで、堆肥の成熟度がリモートで確認でき、より良い堆肥が作れる様になります。
また、農家の温室にもセンサーをつけておけば、肥料をまくタイミングや野菜の成熟状況が分かりますので、この二つを結びつけてジャストタイミングで配送可能です。
配送のための車も、電柱の巡回の為に、たくさん保有しています。
つまり、B社の強みが、すっぽりはまる形で、多角化ができるのです。
元来、中小企業であるC社にとっても、規制の厳しい環境ビジネス業界において、単体では、中々、広く横展開が出来なかったのですが、広く西日本をカバーしているB社のネットワークを活用すれば、それが可能となります。
そこで、C社がビジネスモデルを提供し、B社が横展開するという協力関係を進めるという合意がなされました。
この2社の交渉を繋いだのが、SDGsという「共通言語」なのです。
世の中ではオープンイノベーションの必要性が叫ばれていますが、違う業界・歴史・業態を歩んできた異業種が、全面的な信頼性で協力するのは非常に難しいことです。
その段差を埋める言語的ツールがSDGsなのです。両社の間で、SDGsがあったからこそ、提携交渉が非常にスムーズにいったわけです。
白川◉社会改善という哲学が一致したからこそ、提携が成功したというわけですね。
次号につづく
聞き手:日本コンサルティング推進機構 理事 白川 博司