若い社員が会社の方針を理解できない根本原因
「会社の目標をいくら伝えても、うちの社員はまったくピンときてないみたいです」── ここ数年で順調に事業を伸ばしてきたF社でしたが、ここへきて経営陣と社員の意識の違いが目立つようになってきました。
全員が毎日がむしゃらに目の前の数字をこなしていた段階から、事業拡大とともに組織化を進めてきたものの、登用したチームリーダークラスの人材はまだまだ会社の方針に腹落ちしていないとのこと。
これは、社長による個人事業レベルから脱皮していく過程でよく見られる現象です。さらなる事業成長を実現するために、社長がすべての指示を出す状態から脱し、リーダーが自分で考え部下に指示を出す、ということをやってもらいたいわけですが、その肝心のリーダーが乗ってこない。
そのわけは実は非常に単純なことから来ていたりするのですが、経営陣はだいたいが50歳以上の中年男性である場合がほとんどですので、この単純な理由を理解していないケースが多いです。
その単純な理由とはなにかというと、いまリーダーに任命しているような若い世代は、中年男性が当たり前に持っている価値観を持ち合わせていない、ということなのですが、ではその価値観とはなにかというと、
「会社は大きくしなければならない」
というものです。
そういうと実際にF社の経営幹部の方が、「え? 会社に入った以上仕事をがんばって会社を大きくするために働くのは当たり前じゃないんですか?」とおっしゃいましたが、若い世代からするとそれは当たり前でもなんでもない、ということです。
なぜなら、若い世代はずっと縮小の時代を生きてきたからです。
人口もそうですし、経済もそうです。よく知っている会社も次々と小さく解体されたり吸収されたりしてきました。
昭和の高度成長期やバブル経済を経験した世代とは根本的に実体験が違っていますから、会社が大きくなるということのイメージも持ちづらいですし、会社が大きくなることのメリットも肌感覚でわからないのです。
これを逆の面からみると、中年幹部にしても「会社が大きくなることはいいことだ」ということをなんとなくの感覚でわかっているだけで、なぜ会社は大きい方がいいのですか?と聞かれても「そりゃそうじゃないですか」としか返せなかったりしますから、幹部と社員で考えに乖離が出るのも無理もないことです。
経営者がいくら事業の成長目標を数字で示し、それを実現するための打ち手をわかりやすく説明したとしても、社員は内心(なんで事業を大きくしないといけないの? そんな無理することないじゃん…)と思っていても全然不思議ではないということですね。
ここで、「会社が大きくなればみんなの給料も上がるよ」と言っても彼らは乗ってこない可能性が高いです。というのも「仕事をがんばって給料を上げていこう!」というのが、そもそも旧世代の考え方ですし、特にリーダークラスだとすでにそこそこの給料をもらっていてそんなに困っていなかったりもしますから。
もちろん、給料が上がるのは嬉しいし、リーダーとして登用されている以上、仕事ももっと頑張ろうとは思っているでしょうけれども、かといって会社を大きくするためにもっと仕事を取ろうとか、生産性を格段に上げていこう、といった動機付けには弱いということですね。あるいは、現状すでに手一杯である部下にこれ以上仕事を与えたくない、ということもあるかもしれません。
御社では、社員を守るためにも会社を事業的にも財務的にも強くする必要があること、そうでないと会社なんてすぐに吹き飛んでしまうということを社員はわかっていますか。
そして会社を強くするために事業コンセプトを磨き、そのオペレーションを仕組み化すれば、必然的に会社の規模も大きくなることを社員に説明できているでしょうか。
もちろん、会社を大きくせずに顧客を絞って単価を上げるという方法もなくはないが、自社の理念に照らせばより多くの顧客を幸せにしたいという願いは、彼らには伝わっていますか。
会社が小さいままだと仕組み化と組織化が進まずに、みんながいつまでたっても作業員から卒業できないことを彼らはわかっていますか。
そうではなく、組織で仕事を廻す中で多くの社員がプレーヤーからマネージャーへと成長し、プロジェクトを自ら推進する醍醐味を味わってほしいという気持ちは、彼らに通じていますか。
社長だけでなく、社員もみんな豊かになってほしいし、それを実現する道筋も見えていることを彼らはわかっていますか。
そして、皆が成長して組織が育ってきたら次に挑戦したい夢が社長にはあることを伝えましたか。
よく「事業計画を社員に落とし込む」ことの必要性が言われたりしますが、大事なのは「なに(結論)」を伝えるだけでなく「なぜ(理由)」を伝えることです。その「なぜ」の共有が一枚岩の組織をつくる第一歩となります。
なぜ会社はそこを目指しているのか、その理由を彼らにわかってもらい、その実現を彼らに担ってもらいましょう。
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