位置エネルギーと運動エネルギー
私は現在、アパレル小売会社とコンサルティング会社の2社を経営しています。今後、アパレル会社の方はスタッフに譲っていき、私自身はコンサル会社1本に集中していきたいと考えています。
今まさに移行期間となるわけですが、20年以上いた業界からまったく違う業界に移るのはなかなかエネルギーがいるものだと痛感しています。関わる人々や使う時間、場所などすべてが変わるため、自分が持つ知識やノウハウにプラスして頭や体をフルに動かし、お金や時間等あらゆる資源を使って投資をしないとまずもって成果が出せないのです。
個人的な話ですが、私は自分が成長したいという欲求が強くあり、あまり一か所にとどまることがありません。業界や会社、住む場所や学ぶ環境など、自分が心地よいと思う前に次に移っているようなイメージです。
一方、ずっと同じ環境で過ごす人もいらっしゃいます。これは良し悪しではなく好き嫌いの話になりますが、私自身は同じ会社で一生働くことは向いていないと思っています。
さて、私の好きな話の一つに、一橋大学教授の楠木健氏が著書等でよく挙げられる例え話があります。「力学的エネルギー保存の法則」を人のエネルギーに見立てた話です。
力学的エネルギー保存の法則とは、ボールをある高さに持ち上げると、そのボールは位置エネルギーを得、手を離すとボールの位置エネルギーは運動エネルギーに変化していきます。ボールの落下にともない、位置エネルギーは減り、運動エネルギーが大きくなります。そしてその逆もまた真である、という法則です。
ここから、人のエネルギーにも2種類あり、一つ目は位置エネルギーを求めるタイプ、二つ目は運動エネルギーを求めるタイプがあると話が展開されます。
位置エネルギーを求めるタイプは、地位や名誉、名声を重視し、役職で言えば相談役、会長、審議会のメンバーなどで、「そこにいる」ということ自体がその人にとって価値があります。楠木氏いわく、このタイプは現在の位置エネルギーを維持するのに汲々とする「状態のリーダー」とのこと。
一方、運動エネルギーを求めるタイプは自分自身が仕事をし、どういう貢献ができるか、経営者であれば現実に商売を創り、稼ぐ本来の経営という仕事を実践する「行動のリーダー」と表現しています。
経営者であれば、運動エネルギーを求める「行動のリーダー」でありたいところですが、世間には位置エネルギーを求める「状態のリーダー」が多いような気がします。例えば、入社以来、社長や部長になるために相当の運動エネルギーを費やしたものの、役職についてしまった後はそのポジションを守ることに注力し、位置エネルギーの塊となって内部資源を使うだけ使い、何も生み出さない人はどこの組織にもいるのではないでしょうか。
組織が大きくなればなるほど、全体のエネルギーは強くなり、大企業や公的機関の大半では「状態のリーダー」が跋扈しています。比較的組織が小さい中小企業も例外でなく、その場にとどまることを目的とする「状態のリーダー」は規模にかかわらずどこにでも存在するといっていいでしょう。自分がとどまるために、誰かが生み出したエネルギーを無駄遣いしまくり、会社の価値を棄損させる。おそらくあなたの会社にも一人や二人はいるかもしれません。
それでは「行動のリーダー」であるためにはどうすればいいでしょうか? そもそも生来の気質が相当の影響を与えますので、その人自体を変えるのは難しいでしょう。あえて方法を挙げるとすれば、仕組みとして強制終了させることでしょうか。ただ、大半の企業には任期や業績による評価制度がありますが、あまりうまく機能しているとは言えません。
結局は「行動のリーダー」が状況を変えるしかないという、とんち問答みたいな結論となってしまいます。皆さんも、「状態のリーダー」と陰で言われないよう、少しでも動き、運動エネルギーを求めるタイプであってください。あらゆる成果は運動エネルギーが生み出すのです。
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