経営者は浮足立つことなく変化に対応する
先日、月に一度の顧問先訪問で渋谷に出かけた。顧問先が入るビルの前のオフィスビルに目が留まった。10階建てビルの3フロアーが空いている。顧問先が入るビルのエントランスに目をやると、入居会社の一覧が出ているプレートに空欄がある。先月にはすべて埋まっていたのがここも2フロアーが空いたようだ。
先週の日経新聞の1面に「電通、本社ビル売却検討」と大きく報道がされていた。東京汐留にある大きな電通本社ビルが売られようとしている。このところの業績推移からの判断があるだろうが、大きな要因はやはり感染予防のための働き方が変化したことだろう。リモート勤務の割合が実に8割だという。
言い換えれば2割の社員しか出社していないということになる。同ビルのグループ社員の内9000人超の社員が遠隔勤務をしているという。あの大きな本社ビルに2割の社員しかいないことを想像すると寒々とした恐ろしさを感じる。このようなことが電通以外の大手企業すべてで起きている。
これらのことから東京都心の昼間の人口が大きく減少していることが分かる。オフィスビルの空室率の上昇はひとつの現れでしかない。それ以上にすべてのサービス産業に大きな影響を与えている。深刻なのは一過性のものと思っていたコロナ禍が長期に亘る様相を呈してきていることだ。
マクロ経済的にはGDPの大幅減少、経済規模が大きく収縮する。我々が直接実践として関わるミクロ経済的にはここでは挙げきれないほど無数の変化が生じるだろう。そのなかで今私がとても危惧していることがある。それは経営者と社員の関係性の変化だ。リモートが進むことで経営者と社員の関係性がどうなるのだろう。
今日私の郷里の知り合いの女性が今日上京する。東京での新生活を始めるためだ。上京に併せ就職する。IT関連の会社だという。入社1か月は本社で研修、実務を行う。その後はリモートでの勤務だという。コロナ禍が過ぎた後もリモート勤務は変わらないという。彼女にすれば幼子がいる手前、自宅での勤務はありがたい。
私のようなアナログで育った者からすればとても驚きである。新入社員として雇い入れた社員と研修の後、実際に会うことがないということになる。中小企業経営者であった私にはとても理解できないことだ。新入社員が入ったら経営者としてもなにやら嬉しく気になったものだ。歓迎会をしてやろうとか、他の社員と上手くやれているだろうかとか、なにかと気になったものだ。
先の会社では1か月の本社での研修の後、新入社員と経営者が直接顔を合わせることがない。日々の業務は直属の担当者とのオンラインで済ませるのだという。その場合、経営者と社員との関係性はかつて私が経営していたアナログな会社での関係性と大きく違うだろう。関係性が良い悪いなどという判断基準など存在しない無機質的なデジタルな関係性とでも言うのだろうか。
先の会社が極端な例ということではどうもないようだ。知り合いの会社がそれまでの本社事務所を閉めてすべての社員を基本、リモート勤務に変更したという例もある。そうなるとそれまでの経営者と社員の関係性に何らかの変化が生じるだろう。アナログ的な関係性がデジタル的な関係性へと変わるのだろうか。
コロナ禍が長期化するなか、すでに企業を取り巻く環境が様々に変化してしまっている。こうなると先でコロナ禍が過ぎたとしても変化した環境が元通りに戻ることはない。経営者がどのようにその変化に対応するのかが課題となる。その際の判断基準がある。それはリモート勤務等の働き方改革が生産性の向上につながっているのかどうかしっかりと検証することだ。
経営者が時の変化に併せ企業を変革していくことは常ある事だ。たまたまコロナ禍という非常事態により大きな変化を余儀なくされている。しかしながらこれも企業が対応すべき変化に過ぎないと云える。その変化の中で経営者と社員の関係性をどのように維持、或いは変化させることが最善なのか。経営者の今後の課題となる。
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