人を使うための2つの条件とは。そして、組織で動くための条件とは。
ノックがあり、H社長が入ってこられます。
「おはようございます、矢田先生。」声に張りがあります。
個人宅の外構工事業のH社のコンサルティングも終盤に入りました。
席に着くとH社長は、すぐに話し始めます。
「先月採用した業界経験者の方が、辞めることになりました。」
私は、聞きながら書類を準備します。
「今回の採用は、私の失敗です。しかし、自社の仕組みづくりが進んでいることを知ることができました。」
人を使うためには、次の2つの条件を満たす必要があります。
1つ目は、「やることが決まっていること」。
2つ目は、「そのやり方が決まっていること」となります。
これを聞けば、すごく当たり前のことのように感じます。
しかし、実際には、多くの会社がこの条件を満たせていません。その結果、人を使えていないのです。
「やることが決まっていない」とは、次のような状態を指します。
・お客様の課題をヒアリングして、提案します。相手合わせのビジネスです。これを売っていくのだという、明確な売る物がありません。
・大まかに営業、制作、事務という具合に担当はあります。しかし、そのポジションに、明確な達成することがあるわけでもありません。ルーチン業務を、前任者から口頭で引き継ぎがされます。基本的には、「自分でなんとかやって」となります。
そして、「そのやり方は決まっていない」のです。
・マニュアルが全くありません。その業務では、何を基準とするのか、何を満たせば良いのか、解りようがありません。また、明文化された職場のルールもありません。周囲の人を観察することで、なんとかその一部を知ることができます。
そして、『組織』として機能させるためには、これだけでは不十分になります。組織には、横の分業と縦の分業があります。分業するためには、『管理ができる状態』にする必要があります。
管理の対象は、『進捗』と『品質』となります。
「案件はどこにあるのか」、そして、「それは、今どのような状態にあるのか」、その『進捗』が解る状態にあることが必要です。
その状態が無ければ、管理者が管理することはできません。また、他のメンバーと、協力し合うことも、分担することもできなくなります。
「そのサービスはどうあるべきか」、そして、「どうなった時に、後工程に流してよいのか」。その『品質』の基準が必要になります。それがあるからこそ、管理者は、承認と修正ができるのです。また、仕組みの改善を考えるきっかけを得ることになります。その本人も、自分の成果物に合否の判定ができるのです。
業務で起きる不具合やクレームは、必ずこの2つに起因します。「お客様の意向が制作部門に伝わっていない」、「いい加減な提案書をお客様に出した」。
「進捗」と「品質」の管理ができる仕組みが、絶対に必要になります。
「やることが決まっていない」、「そのやり方が決まっていない」。そして、「進捗も品質も管理できるようになっていない」。この状態では、人を雇用しても、うまくいくことはありません。
このうまくいくことがない状態で、多くの会社が、人を採用しています。
そして、その多くが退職していきます。多くのコストと手間と時間が、無駄になっています。
今、会社にいる人とは、「自分の力で、なんとか収めた人」と言えます。その人は、その業界や業務の経験者です。そして、それなりに地力がある方です。
多くの人が入っては辞めていきました。その中の経験と地力のある少数の人が残ったのです。そして、その全員が、バラバラなのです。それが、今の会社の姿と言えます。
仕組みの無い会社は、『経験者』を採用しようとします。
その人に経験が無いと、仕組みの無い当社では、何も成果を出せません。
経験者が採用できた時には、その人なりのやり方と、その人なりの品質でやってもらうことをします。そして、回り始めると、完全にその人にお任せとなります。そこには、品質という概念が抜け落ちています。すべてが属人的な業務の仕方となります。
そして、管理の仕組みもありません。管理者も同僚も、進捗を確認することができません。その結果、個人商店の集まりのような職場になります。何か殺伐とした雰囲気になります。
その後に入ってくる人も、それに倣っていきます。更に、品質としても、会社としても、ばらけていきます。会社としてのノウハウや改善が積み上がることはありません。そして、その人が辞めると、その多くが失われるのです。
冒頭のH社は、そんなことを繰り返していました。
だから、会社としての営業力も技術力も高まりません。辞められると『ガクンと落ちる』ことを繰り返しています。それどころか、過去には「業者とグルになっての横領」や、「顧客を持っての独立」ということもありました。
H社長は、その状態を脱する決意をしました。コンサルティングも終盤にかかり、仕組みが出来上がりつつあるのを感じます。
次は、人を採用し、「その人を乗せてみて試す」段階になります。自社の仕組みに乗れば、未経験者でも短期間に成果が出せるはずです。その段階なのです。
そのはずだったのに、H社長は、『経験者』を採用してしまいました。
反省の言葉がでます。
「解っていたはずなのですが、いままでの癖が全く抜けていませんでした。」
募集広告に、『経験者優遇』と書いていました。
そして、冒頭の結果になったのです。入社から2か月で、本人から退職の申し出がありました。
その人には、この業界での十分な経験があります。また、自分なりの営業のやり方も持っています。そのため、仕組みがあるH社には、そぐわなかったのです。
お客様宅への訪問のやり方や見積書の作成のやり方の全てが決まっています。案件の進捗を全員で共有しています。それが合わなかったのです。
仕組みが持つ「合わない人を排除する機能」が、発揮されたと言えます。2か月間という早い段階で答えが出せたのは、お互いにとって良かったのです。それが今までの仕組みの無い状態では、「実は合っていない状態」でそのまま働いてもらうことになったはずです。
H社長は、すぐに次の採用活動に移りました。
求人広告には、『未経験者歓迎』の文字を入れました。『未経験者歓迎』とは、実質、「経験者を優遇しない」という意味になります。
その1か月後に、1名を採用することができました。業界未経験の25歳の方です。受け入れからマニュアルを使用しての実務のレクチャーまで、先輩社員が受け持ちます。そして、毎週金曜日の朝には、チームで案件の進捗を確認します。
元々、人当たりが良く、真面目な彼です。顧客層の中心である50代、60代のご家庭の受けもよく、すぐに受注を取れるようになりました。
訪問先からの帰りの車の中で、ハンドルを握るH社長に彼は言いました。
「社長ありがとうございます。私が以前いた会社では、マニュアルもなければ、人から教わることも全くありませんでした。この会社では、皆が教えてくれます。この会社に入れて、本当によかったです。」
涙がでるのを必死で堪えるH社長でした。
仕組みこそが、社長の信念の表れです。
信念があるからこそ、仕組みに向かっているのです。
仕組みのない会社は、経験者を求めます。
そこでは、その品質は相手任せです。
そして、その成果は、相手の責任です。そこに愛はありません。
仕組みのある会社では、未経験者を求めます。
そこには、長い時間で培った自社の品質があります。
そして、その成果は、仕組みの責任です。皆で仕組みを直していきます。
そこにこそ、人間らしさが宿るのです。
仕組みを軸に、人と人が協力します。
仕組みがあるから、先輩が後輩に伝えることができます。
誰もが活躍できるのです。
会社とは、本来、そんな場所なのです。
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