タレント枠なのか文化人枠、なのか?―タレントでも文化人でもない社長のポジション―
テレビのバラエティー番組などでよく、その出演者が「文化人枠」なのか「タレント枠」なのか、ということが取り上げられるのをご存知でしょうか。
作家などがインタビューに応じて、
「私は文化人枠(わく)の出演依頼なので、ギャラが安いんだよ。一緒に出ているタレントさんなんかとはけた違いだよ。」
などとボヤいているのをお聞きになったことがあると思います。
あれはつまり、お笑いタレントなどがバラエティー番組に出演するのは「仕事」なので、きちんとしたギャラが支払われるが、大学教授や作家などが出演するときは文化人コメンテーターとしてのゲスト扱いなのでわずかな出演料しか支払われないのだ、というものです。出演回数の多い文化人の中に、芸能プロダクションなどに所属する人が出てくるのは、そういったギャラに関する芸能界の裏事情もあるのではないでしょうか。マスメディアへの登場は、プロのタレントでなくても、何かしら専門性を持っていれば、その人のキャラクターなどによってチャンスが結構巡ってくるケースもあるのです。
さて、私が経営者にお勧めしている「情報発信戦略」の中には「メディアへの登場」も含まれています。私がお勧めしている情報発信のバリエーションは、自社の発信したい情報をSNSなどデジタル系の媒体を通じてだけではなく、従来のアナログ媒体である、ラジオやテレビ、新聞なども大いに利用してください、ということになります。
そうすると中には冒頭に書いたような、テレビによく登場する「文化人枠」みたいなものなのか、と想像する方もいるのではないかと思います。文人枠の中には大学教授や作家などだけではなく、企業経営者が登場する場面も多々あるからです。面白い社長、ユニークな経営者、名物会長、といった人々の出演もよくあることで、一種のビジネスタレントとしてのポジションを確保しているようにも見えます。つまり、「情報発信に長けるということは、テレビなどによく出て周りから注目されているああいう存在になれ、ということなのか?」と解釈されるわけです。
結論から申し上げますと、私がお勧めしている、情報発信に長けた経営者というのは、ああいう存在(ビジネスタレント)とは全く一線を画すものです。ビジネスタレントというのは、その発言や発想がユニークで、番組内でのレスポンスやテンポがよく、当意即妙にトークをつなげられる、しゃべりのキレのいい人ということになります。
つまり、その番組の主旨に沿って、いかようにも自分の考えや言葉をコントロールできる人のことなのです。つまり、主体はその番組の方にあるのであって、その主旨に沿った発言ができなければ、番組にとって出演する人の価値はないことになります。
一方、「情報発信」は、手段としてメディアを使うことはあっても、主体はあくまでもこちら側にあります。メディア側の主旨に合わせる必要はありません。したがって、自身の専門性やプロとしての見解、ストーリーなどを自らコントロールしながら伝えることになるのです。
いずれも電波に乗せるということでは同様の行為ですが、そもそもの主体性がまるで違うので、結果として表れるものも自ずと異なってくるのです。
ビジネスタレント的な存在は、テレビなどマスメディアの世界ではそれほど新しいものでもありません。昔からしゃべりの上手な有識者や専門家はよくメディアに登場していましたし、時代によっては結構な「売れっ子」的な人も出てきたものです。
しかしながら、メディアに乗せて「情報発信」を継続的にきちんと行なう経営者、という存在は、これまでありそうでなかった新しいポジションなのです。
何故でしょうか。
それはSNSなどで「情報発信」のベースを築き、コンテンツを作りこんでおけば、メディアを通じての発信にも転用できる、という方法論が、近年になってようやく可能になってきたからにほかなりません。
こういった新しい総合的アウトプット方法に気がつき、それを実践している経営者はまだ数えるほどしかいないのです。
メディアについて申し上げれば、私の提案ではまず地方メディアへの出演から始まります。足元である地域メディアへの出演回数を重ねれば、地元マーケットへの有効かつ濃い情報発信になりますよ、というものです。
ここでは軽妙なトークもその場の空気に合わせる余計な配慮も必要ありません。
自らの専門性や思い、エピソードなどをできればストーリー性をもって、むしろ愚直に伝えるくらいが好ましいと思っています。
そういう意味では、かなり地道に自分の行なっているビジネスに寄り添ったものといえましょう。それは、全国メディアに登場するようなビジネスタレントのあるべき姿とは随分違ったものになるのです。
こういった地域メディア戦略を、その準備段階であるSNS等を通じたコンテンツ作りから体系立てて構成していくような考え方は、まだ発表されていませんし、実践例も極めて少ないものに過ぎません。
仮に地域メディアへの出演を足掛かりにより大きなマスメディアへの出演のチャンスが訪れたとしても、主体が己のビジネスであるという姿勢は崩さないようにしなければなりません。メディアは、相性のいい一過性のニュース性や話題性に飛びつきますので、そこにだけ付き合ったのではこちらの主体性が失われてしまうからです。
メディアとの距離感の取り方には難しいところがありますが、自らのビジネスのためにやっているんだ、という原点だけは常に忘れないようにしておく必要性があるのです。
ビジネスタレントの中には、やがてマスメディアにおもねる自分の姿が嫌になって本業に戻っていく人も見られます。
私の提唱する「情報発信戦略」の実践者は、メディアにおもねることなどなく、己の中心に自らのビジネスを置いて、愚直な情報発信にあたっていただきたいと思っています。
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