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商品リニューアルの箱舟

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

10月11月はクライアント企業のイベント出展が続いておりました。イベント出展の大きなメリットは、直接お客様と顔を合わせるチャンスがあることです。お話に耳を傾けたり、ご様子を伺ったりする中でリアルな反応を手にすることができます。そうした一つ一つの接点がテストマーケティングとして成立し次のステップへの飛躍につながってゆきます。戦略的策定はしながら直接会って話してみなければ始まらないというドライブ感もイベントのメリットです。企業側のコミュニケーションの「質」を高めることに集中していくのがポイントです。

そんなリアルな場で実感することは、ますますお客様は「商品そのもの」を求めているんだな、ということです。お客様の口から出てきた具体的表現で、食べ物だったら「美味しいか美味しくないか」であるし、家電ならば「使い勝手が良いか良くないか」。洋服ならば「デザインが良いか悪いか」とか「着回せるかどうか」。サービスであれば「上手いか下手か」、とサバサバっとしたものです。お客様それぞれに物差しがあるとしても、昔から変わらない価値基準の言葉で買い手は伝えてきます。

お客様はモノでお腹がいっぱいになっている。そしてプロモーションを含め企業からの情報の海で溺れかけている。ゆえに、直に商品そのもので判断しようとしています。お客様から商品力が支持されなければ売上が伸びない。直球勝負なのです。

商品力を問われる時代だからこそ、新商品開発ではなくて、商品リニューアル戦略の視点が必要不可欠です。実のところ「新商品」と認識している商品サービスの多くがゼロからの開発ではなく、既存商品のリニューアルであることが多かったりします。ローション入りティッシュペーパーが、動物の写真をアイコンにしたパッケージデザインに包まれ「鼻セレブ」とリニューアルした時、見た瞬間に「新商品のティッシュが出た」と反応するのがふつうの感覚です。

シビアに商品力が試される時代です。今ある商品を改善したり、既存商品のエッセンスを組み合わせて新しい価値に磨き上げてゆく商品リニューアル戦略にはたくさんのメリットがあります。例えば既存商品の実績を「テストマーケティング」と捉えればピンポイントでお客様離れの理由が発見しやすくなります。より商品力を伸ばしてゆくのであれば、今のお客様が欲しいものを掛け合わせてゆくことで、新しいジャンルの商品にリニューアルすることも検討できます。果たして事業の逆算がしやすく、展開しやすく、小さくはじめて事業が大きく育つ可能性に満ちています。

大事なことは、商品リニューアルのタイミングも含めて仕組み化することです。「死神」という落語があります。人の命が一本のろうそくで表現されていますが、ろうがたくさん残っているときは案外その減り方がわからないものです。しかし、残りが少なくなると急激に火の勢いが増したように感じ、慌てたりするものです。商品サービスの寿命もまた同じく、売れいるときには商品寿命の減り方がわからないものです。

経営者、エクゼクティブは必ず「変わらなければいけない」と言葉にされます。しかし、実際に本気で取り組まれる方は2割ほどでひと握りです。日々変化していく時勢にあってどなたも未来を不安に感じておられます。と同時に、頭脳の奥の方では「人もマーケットも、社会も、世界も、地球環境も今までと変わらない」と考えています。ビジネススクールなどで、いまだに過去の成功事例を学ぶコンテンツがあります。 “過去の歴史と今は連綿とした流れがある。過去を見れば未来がわかる”という価値観がまだまだ一般的なのです。

一方、科学の分野には「激変説」と「斉一説(さいいっせつ)」という二つの考え方があるそうです。 この二つは地質学や進化生物学における地球や生命の歴史の捉え方です。激変説とは「天変地異説」とも呼ばれ、フランスのジョルジュ・キュビエという人が最初に提唱した仮説です。言葉のとおり天変地異という大きな変化、影響力により地球環境が変わってゆく、という考え方です。一方「斉一説」とはスコットランドのチャールズ・ライエル氏によって提唱されたもので「過去は現在の鏡であり、過去と現在と未来はゆるやかな地続きである」という仮説です。

19世紀までは激変説は荒唐無稽とされ無視されてきました。が、20世紀に入ってアポロ探査機以降に復活し、「激変説」の科学的妥当性が証明され始めました。2010年には「恐竜の絶滅」は6550万年前の突発的な天体衝突によって一気に地球上から絶滅したことが結論づけられました。テクノロジーが進化した現代では、次々と仮説が証明され始めています。そして、この世界の成り立ちは斉一説ではなく、むしろ予期せぬ出来事によって成り立ってきたということが検証され証明されているのです。

わたくしたちは今この現実に経験していることをベースに過去や未来を考えてしまいます。しかし、2011年の大震災以来たくさんの地象や気象の変化を経験し、いよいよ激変説を受け止める時が来ています。科学によりさまざまな事実が解明されつつある今、138億年という宇宙スケールの視座で考えてみれば、わたくしたちの日常は予期せぬ出来事によって市場が変わりお客様も変わる。肚を決める時がきています。

わたくし自身が商品リニューアルコンサルタントとして変化構築戦略の道をきわめようと考えたのも幼い頃の実体験がベースになっています。1960年代の終わりに神奈川県で生まれ70年代半ばに東京都杉並区に転入しました。当時、町の中をバキュームカーが走っていました。自転車でお豆腐屋さんが回ってきて、母は銀のボールに水を張って木綿豆腐を買っていました。あっという間に水洗トイレになり、スーパーにレジ袋が現れました。

1980年になって国鉄中央線高架下に「マクドナルド」ができ、西友のプライベートブランド「無印良品」が店頭に並び始めました。「セブンイレブン」の出店もこの頃です。ソニーのウォークマンがすごく欲しかったです。やがて、わが家では“マックロード”という名のビデオデッキを買い、中学の社会科見学では東芝の工場へ。リリース前のコンパクトディスクを視聴しました。90年代にはワープロからコンピュータの時代へ。楽天市場がオープンし携帯電話を持つようになりました。

昭和40年代から平成というわずか半世紀、宇宙の歴史からみれば、一瞬のスケールではありますが、わたくし自身が昨日と今日の暮らしがパッと変わり、周囲の大人たちの暮らしぶりや考え方がガラッと変わってしまうことを体験しました。生活と生活に根付いた考え方は、生きている限り変わり続けると体感したのです。

「変わることがあたりまえ。しかも、がらりと変わってしまうことがある」という前提で事業をとらえれば、商品リニューアル戦略は企業の生存戦略そのものです。事業を逆算する視点と、未来は何らかの力によって突然変わってしまうという、相反した思考軸を持つことで自社の振幅を広げておくことがこれからの時代には急務です。もちろん、経営計画書をはじめとしたプランは事業においては必要不可欠です。しかし、どうなるかわからにない未来を考えて思い悩むことは意味がないと知り、旧来説にとらわれた情報との付き合い方を整理することも必要です。

最近、森永製菓の「チョコフレーク」をはじめロングセラー商品の廃盤が話題になっております。チョコフレークにおいては、スマートフォンの時代になって、食する時に手が汚れるため時代に合わなくなったと言われています。ですが、森永も小さなポーションにし個包装するなどの努力はしてきたはずです。目に見える部分のリニューアルはされてきたはずです。しかし、目に見えない部分の本質的な思考軸のリニューアルができていなかったのではないか。どこかで慢心だったのではないか。過去と地続きの今、そして未来がある。そう考えていたのではないでしょうか。「ある日突然、社会や人の価値観がガラッと変わる」という視座で、お菓子屋の普遍的な哲学はそのままに、顧客変化に細やかに対応できていれば、また違った展開が待っていたのではないでしょうか。勿体ないことです。

一斉説を前提に構築された事業モデルや、過去の歴史を踏襲した考え方を一度リニューアルすることが、これからの経営戦略には必要不可欠です。わたくしの商品リニューアル戦略には「変化創造」そして「変化対応」というふたつの方向性を据えております。モノやサービスで溢れ顧客が飽き飽きとしているときには意図して変化を仕掛けてゆく企画力が求められます。そして、社会がガラッと変化した時には事業ステージをあげるための変化対応力という柔軟な方向性が求められます。

商品力がシビアに問われている今、お客様離れが始まってはいないか、お客様に対して鈍感ではないか・・・日々の小さな変化を見過ごさず絶妙なタイミングで「粛々と決断し実践する」の商品戦略システムを定着していれば、その後は淡々と仕組み回してゆけばよいのです。時代がどのように変化しても「変化創造」という企画力と、しなやかでタフな「変化対応力」という二つの視座を自社に定着させることで、業績を伸ばし続けることができます。商品リニューアルとは経営そのもの。むきだしの商品力が問われる時代、スピード感を持ってリニューアルし、唯一無二の商品に磨き上げてゆく気迫が求められています。

 

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