どれだけ粘れるのか、社長の「情報発信」―コップの水が溢れ出るまでには少し時間がかかる―
私は経営者による「情報発信」の効果、重要性を説く立場にあるわけですが、この仕事に携わっていますと、
「本当にそれって効果があるのかね。直ちに売上アップ、業績アップにつながるの?」
と、よく聞かれます。
これに対する私の答えはこうです。
「残念ながら直ち(短期間)につながるということはありません。ただ、少し時間はかかりますが、確実に御社の業績を押し上げていくことだけは間違いありません。その効果が出るまでの努力と時間を我慢できるか次第です。」
というのは、明確な理由があります。例えば、このコラムです。私がこれを書き始めたときは、当たり前ですがごく少数の読者しかいませんでした。しかし、粘り強く書き続けることによってその数は次第に増えて行きます。よっぽど面白くなければ話は別ですが、一定の支持者というのは必ずあるものです。
その積み重ねによって分母は厚みを増していくのです。
この分母が一定の数に達しなければ目に見えた効果は表れてきません。
これを私は「水滴効果」と呼んでいます。
ひとつの容器に水を少しずつ注ぎこんでも、最初はなかなか溜まりません。しかし、やがて水は容器の口の高さまで達し、そこから先は注げば注ぐだけ溢れだします。この水が溜まり切るまで、コツコツと続けなければ結果はでませんよ、と申し上げているのです。
一方、水を一挙に注ぎこんでざばざばと溢れさせるのが、マスメディアを使った大量の広告宣伝です。
この手法はもちろんそれなりに大きな効果はあるのでしょうが、膨大な広告宣伝費というコストを伴います。
しかも、持続性に欠けるので、効果をあげ続けるためには、その広告をやめるわけにはいきません。つまり、これは大企業向けの手法なのです。
中小企業の場合、この大量広告宣伝作戦は、コスト面で無理、という事情もさることながら、そもそもこういった手法そのものに向いているとは言えないところがあります。というのは、企業の力量として、瞬間的な大量発注に応えたり、一定の在庫を抱えながら激しい商品リニューアルを繰り返していくことなどが難しいからです。
さて、話を戻しましょう。コツコツと分母作りに励んで、やがて水が溢れるところまで来たらどうすればいいのでしょうか。ここから先は、次の2点を意識して「情報発信」に心掛けていただきたいのです。
それは発信する情報のバリエーションアップという内的な面での質の向上と、「情報発信」の横展開という外的なチャレンジです。
これまでも述べてきましたように、まず「情報発信」の基本として取り組んでいただきたいのが、自社のストーリーの発信です。
最初は「ネタ」探し的な話題の発掘というよりも、骨太な自社ストーリーのご紹介といったコンテンツに終始していただきたいのです。これだけでも数か月から1年くらいは普通にかかってしまいます。この間に先述した読者であり支持者の分母が形成されるので、手を抜くわけにはいきません。
ただそれだけでは読む方も飽きてきますので、いつもでも同じようなことを続けることはできないと思ってください。徐々に、タイムリーな話題や専門性から少し離れたところでの関連話などを組み合わせていく必要があります。自社の事業や製品などと、流行しているものやこととの関係性など読者の興味を惹きます。
「情報発信」が、こういった応用編にまで可能になれば、自社に対する支持は益々確実なものになるでしょう。実際、具体的なお問い合わせなどにもつながってきます。これが、「情報のバリエーションアップ」という内的な面での質の向上のことなのです。
次に横展開ですが、これはここまでSNS中心に行なってきた「情報発信」に他の媒体を加えていくということです。この時点で既にかなりのコンテンツが蓄積されているため、同じメディアでもお金のかからない地方メディアの利用などは、うまく機会を捉えれば可能性が増してくるのです。原稿を地方新聞などに持ち込むこともできますし、地域FM局でタイムリーなエピソードなど話をすることも可能です。
そもそも、経営者の「情報発信」は、この対外的な横展開まで行かなければ面白味がありません。多重的な「情報発信」の形にまで行きついて、初めてその効果がダイナミックに表れてくるのです。
SNSや地方メディアなど、様々な「情報発信」のバリエーションをものにすることができれば、マスメディアを利用したときと同様の効果を期待することができます。
しかも、この手法の方が大量の広告宣伝というマスメディア利用よりも持続性に優れています。それは、時間をかけて分母を作っていった、という形成過程に大きな意味があるからです。
即効性という点では、少し時間を要しますが、中小企業がネームバリュー或いはブランド力をつけていくプロセスにおいて、これほどコストがかからず、堅実な手法はありません。
しかも、コツを掴めば楽しみながらそのプロセスを作っていくことができます。
中小企業の経営者には是非チャレンジしていただきたい手法なのです。
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