御社がカイゼンに着手してはいけない理由
「うちは製造業だから、やっぱりトヨタ生産方式を導入すべきでしょうか」と、とある社長から相談されたことがあります。
なんでも、同じく製造業を営むお仲間の社長が、カイゼンコンサルタントに依頼してトヨタ生産方式の導入に着手したと聞いて、「うちもやらないとまずいんではないか」と思われたとのこと。
このとき私は「御社の課題の全体像は俯瞰できていて、その中でも「カイゼン」、つまり工場の生産性を上げることが最優先ということですか?」とお聞きしました。
そのときその社長がおっしゃった「えっ?うちは製造業だから、カイゼンはいずれにしてもやった方がいいですよね?」というお言葉。ここに問題が潜んでいます。
日本が誇るグローバル企業の代表格であるトヨタ。同社の生産方式は日本だけにとどまらず世界にも広まり、カイゼン、カンバン、ポカヨケなどの用語もいまや世界共通となっています。同じ日本企業として、そして製造業である以上、この生産方式を採用すべきではとお考えになっても無理はありません。
しかし、「製造業だからカイゼン」というような短絡的な発想で生産改革、生産改善に手を出しても全く意味がないばかりか、下手をすると会社として大きな損失を被る可能性もあり非常に危険です。
そもそも論となりますが、会社が利益を生むのは、あくまでも「他社との差別化要素」であるというのが競争市場における原理原則です。この差別化要素をまずは明確にすること。その上で、それを実現するためには、バリューチェーン(一連の企業活動)の中のどの要素に手を加えないといけないのかを俯瞰して分析することが非常に重要となります。
事業コンセプトから商品・サービスの企画、開発、そして購買、製造、販売、物流という一連の企業活動の流れでみていかないと、どこをてこ入れすべきかは見えきません。そして、原則論として上流、つまり事業コンセプトや製品企画で差別化できていないと、中流の製造の部分をいくらいじっても競争力は生じないのです。
現にトヨタにおいても、その利益の源泉はトヨタ生産方式(TPS)から来ているのではなく、その上流であり設計情報をつくるトヨタ流製品開発(TPD)、つまり「売れるモノ」を企画し設計する部門なのです。トヨタ生産方式は、お金がなかった頃の同社が、TPDに従って売れるモノを最小の資金で現実化するために編み出された手法であり、利益の源泉という意味ではサブ的なものと言われています。
「うちはものづくりの会社だから、、、。」この言葉をこれまで何度も聞いてきましたが、バリバリのものつくりの会社は特に注意が必要。「製造業=ものをつくるのが仕事」と考えてしまうと失敗します。
ものを作ろうがなにをしようが、企業はお客様に価値を届けるのが仕事なのです。ものづくりコンテストでは勝てたとしても、実際に市場競争では食っていけません。コンセプトなき「カイゼンの目的化」は内向きで自己満足の発想です。
では、自社の強みを打ち出すために「超短納期」というコンセプトを実現させるとします。この場合も製造業の会社が陥る失敗は、納期短縮を「製造」の部分だけで考えてしまうことです。
そうではなく、お客様が欲しい!と思った瞬間から、お客様に商品・サービスが届くまでの、全体の時間軸の中で考えなくてはいけないのです。いえ、お客様が欲しいと思う前から勝負は始まっています。このあたりの感覚を経営者がもてるかどうかが大きな分かれ道なのです。
スマイルカーブという付加価値曲線の考え方があります。人が笑って口の両端が上がったようなU字曲線をいうのですが、この曲線の意味は、両端の上流と下流は利益をあげやすいが、下にへこんでいる中流は利益を出しにくいということです。中流とは「製造・組み立て」の部分を指します。
この「中流」の部分での発想に留まっている企業に先はありません。張りきってカイゼンに取り組んだところで、「売れるモノ」、つまり価値を生み出さなければ会社は潰れます。もちろん、カイゼンそのものが悪と言っているのではありません。会社を伸ばす全体設計の絵が描けていないなかで、カイゼンだけやってもなんにもならないということです。
社長、モノづくりも価値を提供するための単なる手段です。お客さまが驚き、競合が地団駄を踏むようなとびっきりの価値を提供していきましょう。
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