経営者は銀行員の一歩先を行くことで、資金繰りを回す
「いやぁ~、ほんとっ、がっかりしたよ」
先頃、ある銀行に運転資金の申込をされたクライアントのAさん。
今回は融資が出るかどうか微妙な状況だったため、日々の売上の内訳はどうなっているか、どんな市場を相手にしているのか、現状を踏まえて今後どのような手を打っていくのか、銀行員からどんな質問が来てもバッチリ答えられるようにしっかりと準備をしました。銀行に行く前には二日間ほど徹夜をしたそうです。
そして、いざ銀行との交渉当日。準備していった項目については何も触れられず、決算書を一通り目を通された後、家族構成について質問されました。
Aさんは「そんなことまでお話しないといけませんか?」と内心むっとしつつ、家族のことを説明。そして、奥様が某金融機関に勤めていることを話すと、「ところで、奥様の年収はどのくらいですか?」ということを聞かれました。
Aさんが答えると、先方は、「じやぁ、Aさんの給料が減っても生活は大丈夫ですね!」ということで、急に声色が変わり、融資のOKが出たのです。
実はAさんの会社、資金繰りは回っていますが、収益としてはギリギリ黒字の状態。売上は安定しているものの、今後もし売上が下がると、Aさんの給料分ぐらいの赤字が出る恐れがあります。
その時、経営者であるAさんが役員貸付金として、ご自身の給料分をそのまま会社に貸し付けることができれば、今回申込した融資もほぼ問題なく返済できるという判断を先方が下した訳です。
せっかく、会社の今後の見通しをしっかり説明できるよう準備していったのに、そのことには一切触れられず、奥様の年収を聞いた途端に融資の内諾が出たことに、資金調達のメドが立ったことには喜びつつも、Aさんとしてはちょっと納得がいかないご様子でした。
金融庁の方針転換もあって、銀行は決算書だけでなく、将来のキャッシュフローをしっかり吟味した上でお金を貸すか、貸さないかを審査するよう指導されています。
しかしながら、経営者がいくら、日々の売上の内訳はどうなっているか、どんな市場を相手にしているのか、現状を踏まえて今後どのような手を打っていくのか、ということをしっかり把握しても、銀行員が経営者以上にこれらの経営課題を理解し、その是非について経営者以上に的確に対応するのは難しいという現実が実際にはあります。
Aさんの交渉相手である銀行員にとってみれば、最終的に融資したお金がきちんと返ってくるかどうかが、最大の関心事であって、融資したお金によって、最終的に会社の売上が上がるかどうかは、最大の関心事ではありません。
仮に計画通り、売上が上がらず、利益が減っても貸したお金が返ってくるかどうか。この点からすると、Aさんが準備した説明資料よりもAさんの奥様の年収に関心があったのも、ある意味当然なのです。
Aさんが二日間徹夜して作った資料は、銀行からの資金調達という点では、今回無駄になってしまったかもしれません。けれども、会社を長く続けていくという点では、けっして無駄にはなりません。
経営者は会社をどうやって長く続けていくかというのが最大の関心事。銀行借入はそのための一手段にすぎません。会社のことを一番理解しているのは経営者。たとえ、計画通り売上が上がらず、利益が減っても、経営者は会社を続けていかなければいけません。
銀行員が発想できない方法をひねり出し、それをどうやって実行していくか。経営者は銀行員よりも一歩抜きんでてこそ資金調達も上手くいきます。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。